こんにちは。服部葬儀社 相談員の中道 剛です。

 

みなさんは、遺言と聞いて何を思い浮かべますか?

「うちはそんなに資産がないから関係ない」と思われている方も少なからずいらっしゃると思います。ですが遺言が無いことにより家族が相続について争ってしまう事となり、相続をもじって「争続」といわれることもあります。仲の良かった家族がいがみ合うのは悲しい事ですよね。

今回は遺言についてのお話しです。

 

◆遺言とは

「遺言」にはいくつか読み方がある事はご存知でしょうか?よく聞く言葉は「ゆいごん」だと思います。法律用語として使われるのは「いごん」です。その他、「いげん」と呼ばれることもあるそうです。一般の方の読み方は「ゆいごん」で良いと思います。

 

ところで「遺言自由の原則」という言葉をお聞きになったことはありますか?「遺言自由の原則」によって、人は生前だけではなくその死後も自分の財産を自由に処分することができるのです。

ただし後述しますが、遺言は絶対的な効力を持つものではないので注意が必要です。

 

 

◆「相続」が「争続」になる場合

冒頭にも書きましたが、多くの方が「遺言なんて・・。私にはそんなに財産がないから関係ない。お金持ちの人が書くものでしょ。」と考えているのではないでしょうか。

 

上記のグラフは、平成30年度の遺産分割事件数を表したものです。遺産分割が当事者同士で解決できず家庭裁判所に持ち込まれた総数に対する価額(相続の資産価値)の割合を読み取ることが出来ます。

上記グラフは平成30年度のデーターですが、令和元年の遺産分割のトラブルで家庭裁判所に持ち込まれた件数は、約12,780件とびっくりするような件数が「争続」となっています。

このグラフを見ると、資産が1,000万円以下の遺産分割事件は33.1%あり、資産が1,000万円~5,000万円の場合と合わせると過半数どころかなんと73%となります。このことから、「自分は財産が少ないから遺言書は不必要」と判断し事前の準備をしていなかったために、遺産分割のトラブルつまり「争続」に発展してしまったと考えられます。

資産というと預貯金を思い浮かべる方も多いと思いますが、持ち家や土地、自家用車等を所有している方も全て資産額に含まれるため注意が必要です。また、借金も相続の対象と見なされます。ご自分が一体どのくらいの相続すべき資産を持っていて、自分が亡くなった時に所有している財産はどのようになるか一度考える必要がありますよね。

 

 

◆遺言書があってもトラブルも

遺(のこ)された家族が争わないように遺言書を作成することを決めたとしても、遺言書に不備があり効力を発しない場合や、内容が不公平な場合、争いになってしまうことがあります。

 

遺留分とは

例えば、晩年にとてもお世話になった次女に残りが少なくなった財産のすべてを渡そうと考え、遺言書を書き遺したとします。

ところが、家族である長女がそれは不公平であり、遺留分をもらう権利があると争いになる場合があります。

遺留分とは、近しい関係にある法定相続人に最低限遺産の取得が保障されていることです。この権利は遺言の内容よりも強い効力があります。

 

・遺留分が認められる相続人

配偶者、子ども、孫などの「直系卑属」、親、祖父母などの「直系尊属」。

 

・遺留分が認められない相続人

兄弟姉妹や甥姪。

 

 

 

◆遺言書の種類

 

遺言書は3種類に大別され、作成の際には自分に最適な種類の遺言書を選ぶ必要があると言えます。

昨年作成された遺言書は、自筆証書約18,000件に対して公正証書が約113,000件と、公正証書が圧倒的に多い状態です。

 

・自筆証書遺言

遺言書全文が自筆であることが絶対条件です。パソコンやワープロで作成したものは不可とされます。その他、日付や署名、押印が必須とされています。費用は掛かりませんが書式の不備により効力が失われることも非常に多くあるといわれています。

 

・公正証書遺言

公証人が証書を作成する方式です。書式の不備はまずないといってよいでしょう。作成後公証役場にて保管されるため、改ざんなど行われることはないとされています。

 

・秘密証書遺言

遺言内容を誰にも公開せず秘密にしたまま2名以上の公証人に証明してもらいます。公証役場に保管を行わない為、死後見つけられず開封しなかったという事も多くあるようです。こちらを選択される割合は非常に少ないといわれています。

 

 

 

◆遺言の作成と費用

 

・遺言の依頼先

公証人に作成してもらい公証役場に保管してもらう「公正証書遺言」などが一般的といわれています。

手数料は相続財産額によって変わりますが、1万円以上はかかるようです。

また、弁護士・司法書士・行政書士などの士業に依頼して作成することも可能です。法律の専門家である士業では、法的なトラブルの回避や、トラブルが起きた際にもすぐに対応できるというメリットの他、自己資産の価値の算出にもたけているとされ心強い味方になってくれそうです。

費用は作成時に最低20~30万(相続財産によって変動する場合あり)かかるといわれており、高額である事が難点です。

遺言を自分一人で作成する場合費用は掛かりませんが、間違いなどにより効力が発生しないこともあり、遺言についてよほど詳しい人でないと難しいといわれています。

 

 

 

◆新しく低額でのサービスがスタート

2020年7月10日より「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が施行されました。これにより、自筆の遺言が一通3,900円という低価格で、法務局にて保管されるサービスが可能となりました。

2020年10月現在、サービス開始からわずか3ヶ月で利用者は9,000件を超え、この新制度は支持を受けているようです。

低額で使用しやすいというメリットがありますが、注意が必要な点もあります。法務局では書式の確認をしたうえで遺言書を保管しますが内容には関知しないため、前述した「◆遺言があってもトラブルも」のような内容の遺言書であっても指摘されないという事です。

それを考慮すると、法務局に保管する前に弁護士などの士業の方に内容確認をしていただいたほうが無難かもしれませんね。

また、法務局に預けてあったとしても、相続人からの照会が無い場合はそのまま開封されないという事もあるので、相続人などに預けたことを伝えておくべきでしょう。

 

 

まとめ

・遺言の作成は相続する財産がたくさんある方が対象と思われますが、相続人同士で解決ができず裁判になってしまうのは、相続額が5,000万円以下は43%、1,000万円以下が33%と圧倒的に多くなっており、遺言をしっかりと作成していなかったことが原因と言われています。

・遺言を作成したとしても書式に不備があり無効になるものや相続人が遺言書の存在を知らずに開封に至らなかったものがある他、内容が不公平で争いになってしまうなど、「争続」になってしまう案件が多くあります。

・2020年7月より、自筆の遺言書を法務局で保管できる制度が始まりました(一通3,900円)。ただし、内容に関しては弁護士など士業の方に確認してもらう必要があると思われます。